酸と塩基の3つの定義
酸と塩基の定義は、上の画像のように3つあります。
ずっと「なんで3つもあるのさ!1つにまとめてよ!」と、思っていましたが、定義が増えていった経緯を学んでみると、「そりゃしょうがないな」と思いました。
それでは提唱された順に見てみましょう。
最初に酸と塩基を定義したのは、スウェーデン人のスヴァンテ・アレニウスでした。
アレニウス酸をHAとし、アレニウス塩基をROHとすると、次のような式で表現することができます。
アレニウス酸 : HA → H+ + A-
アレニウス塩基 : ROH → R+ + OH-
水溶液の酸性、塩基性を定義するにはこれが一番便利です。
しかし、この定義は水の中の反応にしか使えません。
有機溶媒など水以外の溶液で、酸と塩基はどう定義したら良いのか?また、OH-を含んでいないNH3の水溶液が塩基性を示すのはなぜなのか?
それに答えを出したのが、デンマーク人のヨハンス・ブレンステッドとイギリス人のマーチン・ローリーでした。アレニウスが自身の定義を提唱してから約20年後のことでした。

この定義では、次のような水が関わらない反応でも、酸と塩基を定義することができます。
H2SO4 + HNO3 ⇄ HSO4- +H2NO3+
H2SO4がブレンステッド酸、HNO3がブレンステッド塩基で、酸と塩基が同じ反応式内にあるのが特徴です。
そして重要なのは、反応相手によって同じ物質が酸になったり塩基になったりすることです。
① CH3COOH + H2O ⇄ CH3COO- + H3O+
② H2O + NH3 ⇄ OH- + NH4+
①式でのH2OはH+を受け取っているのでブレンステッド塩基になりますが、②式でのH2OはH+をNH3に与えているのでブレンステッド酸になります。
ちなみに、NH3が水中で塩基性を示す理由は、②式においてNH3がブレンステッド塩基だからですね。
〈共役塩基と共役酸〉「共役」とは2つのものがセットになって結びついていること、同様の働きをすることを表す言葉です。逆反応が進行すると、共役酸が酸、共役塩基が塩基としてとして働くため、こう呼びます。
しかしこのブレンステッド・ローリーの定義では、H+を持つ物質しか説明できません。
そこで、さらに約20年後、共有結合を発見したアメリカ人のギルバート・ルイスによって新たな定義が提唱されました。それがルイスの定義です。

これならH+を持たない物質にも酸と塩基が定義できます。
そして分かりやすいのが、
非共有電子対をもつ物質はすべてルイス塩基の可能性があり、
軌道が電子で満たされていない物質はルイス酸の可能性がある、という点です。
軌道が電子で満たされていない物質はルイス酸の可能性がある、という点です。

例えば、H+はH(水素原子)からたった1つの電子が放出された状態です。つまり、1s軌道がカラなのです。
そこへ非共有電子対をもつOH-が近づくと、H+が1s軌道にOH-の電子対(2個の電子)を取り込み、H2O分子となります。
この反応ではH+がルイス酸、OH-がルイス塩基となるのです。
一般にOとNを含む有機化合物のほとんどは、孤立電子対をもつためルイス塩基だと覚えてしまいましょう。
このように、最終的にはまた電子の動きにたどり着きましたが、どの定義もよく使われます。
文中で単に「酸」「塩基」という言葉が出てきたら、それがどの定義のものなのか、頭の中で確認してみましょう。
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