第59週 一勝のための一敗

先月、一発目に受けたトライアルの不合格通知が届きました。

産業翻訳で受けたトライアル。定訳のない用語が3~4個入っており、抽象的でとても難しい印象のものでした。下調べを念入りに行ってノートも1冊作って臨んだものでしたが、残念な結果に。

改めて自分の訳文を見てみると、いくつかのことに気づきました。

誰のための翻訳か


まず、訳がカタイ。ガッチガチです。誰が読むのか?という視点が欠けていました。この文章はどこに使われるのか考えてみると、企業のパンフレットやホームページだろうと想像できます。すると読み手は(原文の内容からして)30代~50代の男性サラリーマンがメイン。忙しいサラリーマンが、果たしてこんなガチガチの文章を読むだろうか?答えはノーです。

そして、定訳のない用語の解釈も誤った可能性が大きいです。自分で自分に説明できるよう、一つ一つ用語を調べましたが、どうしても説明できない箇所が残っていました。せめてスペルアウトで対応するべきでしたが、対応も誤りました。

提出時は「70点くらい」と自己評価していた訳文も、実際は60点の合格ライン(仮想)を大きく下回るものでした。

しかし、これは「不合格」という判定をくらって初めて気づけたこと。くやしいけれど、こういう気づきを得られたことが収穫でした。

この不合格通知をもらったとき、ちょうど別のトライアルに取り組んでいました。おかげで校正力がアップ!より厳しい目で自分の訳文を見直しました。

誰のためのコメントか


今回のトライアルでは、用語の選択にとても悩んだ箇所がありました。選択肢が2つあって、どちらも正解。特許調査をしてみると、明らかに出願人の好みで選択していると判断できました。

この用語にコメントを付けていたのですが、そのコメント内容がどうもひっかかる。でもどう直したらいいのか分からない。そこで「このコメントは誰のため?」と自問自答してみました。

「翻訳」は、クライアントに満足してもらうために、翻訳者-チェッカー-PMがチームになっていると思っています。すると、コメントとはどうあるべきかが自ずから見えてきました。

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・チェッカーが疑問に思うであろう点に、先回りして答えを提供しておく

・PMがクライアントに確認しやすいような文章にする

・選択肢が2つあるならば、クライアントが選択しやすいよう根拠を添える

・短い文章で要点だけを伝える

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この視点で自分のコメントを見直すと、トライアルという場面で合格したいだけの独りよがりなコメントになってしまっていることに気付きました。トライアルは、これから仕事のお付き合いが始まる会社へのファーストアピール。チームとして気持ちよく仕事ができる人間だとアピールできるコメントに修正しました。訳文の内容も、「読みやすく正確に」に気をつけてブラッシュアップし、最後に神頼みもして提出しました。

その4日後、有り難いことに合格の連絡を頂きました!

この合格でわかったことは、次の2点です。

  • この訳文は合格ラインであること

  • このコメントの付け方も合格であること


長い明細書のたった一部分について評価してもらったに過ぎません。けして翻訳者として認めてもらったわけではありません。合格は嬉しいけれども、この先にある(であろう)実ジョブのことを考えると、身が引き締まる思いの方が強いです。

誰のための翻訳か、誰のためのコメントか。その視点を与えてくれた2件のトライアルでした。

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勉強および作業時間:47.5h

内容:トライアル、物理シリーズ No.36-44、薬物動態学、MEMS資料調査など

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コメント

  1. かぼちゃさん
    トライアル合格おめでとうございます!
    今回の記事を読ませていただき、「誰のためかを考えること」がなぜ重要なのかを改めて実感しました。
    最近はトライアルの壁が突破できずに焦ってしまい、気が付かぬうちに「ただ合格が欲しいだけの訳文」になってしまっていました。
    この記事を読んで、それに気がつくことができました。
    とても大切なことをシンプルな言葉で冷静に、わかりやすく書かれていて、素晴らしい内容がギュッとつまった記事ですね。
    講座も卒業されて自己管理のみで進められている中での合格は、かぼちゃさんが見えないところでされている努力の大きさが伝わります。
    私も頑張ります。
    またひとつ勉強させていただきました。ありがとうございました。

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  2. Kaoさん
    コメントありがとうございます。そんな風に言って頂けて、ただただ嬉しいです。
    せっかく気付いた大事なことを、次は無意識にできるようにしなければいけませんよね。
    ややもすると文字列ばかり見てしまうので、モニターに読み手の名前を書いて貼ってます(笑)。
    Kaoさんがブログに書かれていたノーベル賞で勇気づけられた言葉、私も勇気をもらいました。
    無駄打ち上等ですね。
    これからもお互い頑張っていきましょう。

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