Incorporation by Referenceってなんだ?

米国出願の特許を読んでいると、よく目にするフレーズがあります。

[su_note note_color="#ffffff"]"…which is incorporated by reference in its entirety."[/su_note]

特許には独特の定型表現がいくつかあり、これもそのひとつ。
例えば、「その全体を参照により本願明細書に援用する」と訳します。
いつもはあまり深く考えずに定訳をあてていますが、ちょっと立ち止まって調べてみました。


Incorporation by Referenceは米国特許独特のルール


特許という制度は、各国それぞれの特許法のもと保護されます。

日本では特許法、米国では35 U.S.C.(米国特許法)、中国では中華人民共和国専利法…など。

基本的な仕組みは似ていますが、各国それぞれ独自のルールを持っています。

米国では37 CFR 1.57(c)にIncorporation by Referenceというルールが規定されており、
これは、他の文献を参照して引用することにより、自分の明細書の記載内容を省略できるというもの。

…つまりどういうこと?

拒絶対応や、補正のときに役立つ!


特許を出願したあとは、各国の審査官によって審査があります。
この審査、嬉しい(?)のが一発勝負じゃないところ。

審査の結果、「ちょっとねぇ~」という場合は、審査官から「拒絶理由通知書」というお手紙が送られてきます。

「あなたの特許は○○だから、特許権はあげられませんな。」

でもこれって「○○を直せば通してあげてもいいよ」ってことなので、
出願者は審査に通るように明細書を修正して、「○○を直したので、ひとつよろしく」と、返信します。

すると審査官が修正したものを再度審査して、問題なければめでたく権利化となります。

これが数回繰り返されることもあれば、一発OKの場合もあり、一発NGの場合もあります。

この審査官とのやりとりを「拒絶対応」、明細書を修正することを「補正」といいます。(補正はこの前段階でもOK)

補正するためにもいろいろルールがありまして、その中の1つが「新規事項の追加禁止」

「最初の明細書に書いてないことを追加しちゃダメよ」ってことです。

あくまで早い者勝ちな特許の世界。先に出願した者、先に公にした者が勝ちます。

だから最初に書いてないことを、後から補正で追加するのは後出しじゃんけんみたいなものなので禁止されています。

さてようやくIncorporation by Referenceの説明に入れますが、"(文献名), which is incorporated by reference"という一文を入れておけば、その文献の記載内容を明細書に取り込んだことにできるのです。

つまり、自分の出願の中には書いてない事項でも、参照した文献の中に書かれていることを理由に、拒絶対応や補正ができるのです。新規事項とはみなされません

参照文献をまるっと記載すると明細書が長~くなっちゃいますが、この制度を使えば一文で済むので、明細書のコンパクト化というメリットもあります。

以上が、米国特許法におけるIncorporation by Referenceの簡単な説明でした。

特許翻訳での対応


英日翻訳の場合、納品物は日本特許庁に出願され、日本の特許法のもとに審査されるものになります。
よって上記で説明したような効果は得られないので、これまで通り訳抜けに注意しつつ、「参照により援用する」という定型訳をあてるという対応で良さそうです。

ただし、日英翻訳の場合や、直接英語で出願する場合には注意が必要ですね。
きちんとIncorporation by Referenceの定型句を使用していないと拒絶される事態になりかねません。


結論


「参照による援用」という定型訳でこれまで通り訳出する。

おまけ


今回調べている中で、翻訳者にとって冷や汗ものの記事を見つけました。
翻訳者にとって一番関係が深いのが
米国特許法第112条(b)(http://goo.gl/c56Dx0)に
基づく拒絶です。

この拒絶は簡単に言うと、審査官が
『この翻訳は意味不明なので書き直してください』
と言っている拒絶です。

つまりこの拒絶は、
審査官からダメ翻訳の烙印を
押されたようなものです。

「BEIKOKU Patent Translation Lab. 代表のブログ 」より

日英翻訳の際は特に注意しなければと思いつつ、英日でも同じこと。
審査官が読んで意味不明なものを納品することのないよう、常に「内容」を翻訳するようにして仕事に臨みます。

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